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社会 / SOCIETY

流 転 ― 水野健・波瀾万丈の半生 #7(後)

公開日時:2014-12-17

 

流 転 ― 水野健・波瀾万丈の半生   #7(後)

■スケープゴートにされた水野

 水野の話に戻すと、これまで水野の口から多くの大物裏人脈の名前が飛び出した。が、水野が張り巡らした人脈の中には、当然、表の大物も数多い。たとえば、当時の警視庁警視総監および国税庁長官、さらには大物政治家だ。実は先の田中森一も、そうした水野人脈の1人だった。
 そうした水野人脈が動いた、こんな裏話があったという。
 警視総監と国税庁長官との間で、水野が税金を払うことで起訴しない、と。
 また、いまも現職だから実名を出すのはばかれるが、警視庁のキャリア官僚出身の代議士だ。水野はこの代議士を食事に誘い、事件について相談したところ「大丈夫。まかしてくれ。なんとかする」と断言したが結局、代議士は検察側についたという。
 だが、水野はいまでも同議員のパーティなどに出席して「あのとき、お前がしっかりやってくれれば…」と冗談を飛ばす仲だ。
 政治家といえば、水野は首相経験者を含む何人かの大物代議士に、多額の資金を提供していた。ある代議士などには、選挙のたびに5000万円単位の資金を渡していた、という。
 危機に直面したときの振る舞いに、人の「正体」が覗く。水野が摘発されたとき、これらの政治家だれもが、一斉に水野と距離を置いたという。
 まさに「正体」が見えた格好だが、彼らを“弁護”するならば、水野の事件の裏には、これまで誰も書かなかった事情があった。
 実は特捜部は当初、政治家が絡んだ贈収賄罪を視野に入れていたのである。
「巨悪は眠らせない」――これこそ東京地検特捜部の出番だ。結局、立件できなかったわけだが、こんな事情がなければ、先の大物政治家が水野のために動いたかも知れない。
 いずれにしても、水野の人脈をもってしても、日本最強の捜査機関である東京地検特捜部の壁は破れなかった。
 しかし――。
 ときはバブル絶頂期。ゴルフの会員権は3000万円〜5000万円は当たり前で、異常に高騰した時代だ。こんななか、ゴルフ業界では尋常ならぬ商売を展開していた。水野自身も「俺と市川造園のコンビは評判は悪かった」と述懐している。
 ただ、これだけは書き残しておく。
 これは前にも触れたことだが、水野が目指していたのはアメリカ流のパブリック、大衆コースだ。それで会員権がいくらでも高く売れるなか、水野は200万、300万円という安価な価格で販売していた。
 逆の見方をすれば、この水野の薫陶を受けた三輝・丸西が、水野に倣い会員権を安く販売して、52000人も会員を募集して1200億円の資金を集めたことになる。
 ともあれ、こうした時代背景、ゴルフ業界の環境だったことを記憶しておいてもらいたい。水野の取調べにあたった検事(早稲田の後輩)が、はからずも漏らしたセリフが、ここに極まる。
「会員権の乱売など、いまのゴルフ業界は目茶苦茶な手口が横行している。業界では名の通っている水野を逮捕すれば、業界のこうした闇が一掃されるとの声が強い。その辺の事情を分ってくれ」
 水野にしてみれば「そんなこと分るか」といった心象風景だが、特捜部が水野の逮捕に至った“意図”と“背景”が鮮明に浮び上る。
 つまり水野は、業界に対する見せしめのための“スケープゴート”にされた形なのだ。そこには特捜部の強い意志があった。
 特捜部が描いた絵図――繰り返し述べるのは、我々の記憶には厚労省元局長(現・事務次官)村木厚子の冤罪事件が、鮮明に残っているからだ。
 村木が郵便割引制度を巡る偽の証明書を発行したとして、逮捕――起訴されたのは平成9年6月のことだった。
 村木は一貫として否認したが、取り調べは検事の誘導で、異例の展開となった。
 だが周知のとおり、検察側の主張は破たんした。大阪地検特捜部の主任検事が、押収したフロッピーディスクを改ざんしていたことが発覚したのだった。
 すなわち、取り調べにあたった検事は、特捜部が描いていた事件の構図に沿うように、資料を書き換えていたのだ。これは上司(特捜部長、副部長)も認識していたことだった。
 この結果、検察側が描く絵図が音をたてて崩れたのである。村木の無罪が確定・釈放になったのは、逮捕されてから1年3ヵ月後の翌平成10年だった。
 真相の追及よりも逮捕ありき――捜査がいかにズサンで予断に満ちたものだったか、が白日の下になり、特捜部のそのあり方が根底から問われる事件だった。
 この“村木事件”の約10年前に水野は村木同様、検察の絵図の“悲劇”に遭ったのである。それでも村木は無実が証明された。一方の水野は遂に検察のストーリーを打ち破れなかったのである。それがいまでも、あたかも地中の不発弾のように、水野の脳裏には眠っているのだ。
 崩れ去らない「神話」は無い。バブルの神話が崩れたなか、平成4年ついに水野は所得税法違反容疑で逮捕されたのだった。
 さらに詐欺罪、外為法違反も追加されている。詐欺容疑を付されたのは、特捜部の思惑通り三輝・丸西から引き出した「すべて水野の命令でやった」という一言だった。
 この供述によって「会員を募集し、金を集めたのは水野だ」と、特捜部の描いた絵図に見事にはまったのである。
 また外為法違反――何度も繰り返すが水野は昭和36年以来、日米の間を往来しアメリカでも事業を展開していた。
 当然、その頃から日本―アメリカ間での金の出入りはある。そのときからの両国間での金の流れが、外為法違反と認定されたのだった。
 その後の8年間に及ぶ裁判。水野は一貫として無罪を主張したが、結局、核心の部分はそのまま迷宮入りの形で、平成12年に懲役10年の刑が確定したのだった。
 5人の弁護士に加えてアメリカから来た弁護士、その裁判費用はハンパではなかった。そのうえ罰金7億円だ。これに追い打ちをかけるように、水野名義のゴルフ場やビルなど全てを失った。
 アメリカで展開していたホテルなどの資産(現金を含めて)は、実に3億ドル(当時のレートは約160円)も没収されたのだった。
 そして10年間の塀の中の生活。
 10年――。十分な時間だ。
 高校生だった女の子は、すでに結婚して子どもがいる年齢になっている。男の子は社会に出てスーツ姿が身に付いた姿がある。そして“水野事件”は、もはや人々の記憶には忘却の彼方に消え去った。
「合法」「違法」は司法の判断だ。しかし「正当」「不当」は社会の評価である。

 

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